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片頭痛の予防注射製剤「抗CGRP関連製剤」

世界で一番疾病負担の大きい領域は神経疾患で有り、その中での第1位が脳卒中、第2位が片頭痛です。片頭痛で命を落とすことは有りませんが、頭痛発作のために学校や会社を休んでしまったり、仕事や勉強、家事などの効率が極端に低下するなど生活支障度が高く、本人が辛いのみならず社会的損失が大きい疾患です。
目の前にいる片頭痛の患者さんに2剤、3剤の内服予防薬を投与し、片頭痛の危険因子を生活の中で回避してもらいながら、できるだけ頭痛発作が出ないようにお薬を処方してきました。しかし、ある程度は頭痛頻度や痛みの強さは減弱するものの、依然として生活支障度が高い方々も多く、2021年4月26日に注射予防薬であるガルカネズマブが発売され、片頭痛治療の長いトンネルにようやく明るい光が差し込んできました。

現在本邦で使用できるのは、「ガルカネズマブ:(商品名)エムガルティ®︎」「フレマネズマブ:(商品名)アジョビ®︎」「エレヌマブ:(商品名)アイモビーク®︎」の3種類です。
下の図にある様に、これらの注射製剤はエビデンスレベルが高く、確実性の高い予防薬となっております。

当院では片頭痛予防注射製剤である抗C G R P製剤を使用することができます。
日本では現在3種類の抗C G R P製剤が使用可能です。
「ガルカネズマブ:(商品名)エムガルティ®︎」「フレマネズマブ:(商品名)アジョビ®︎」「エレヌマブ:(商品名)アイモビーク®︎」の3種類です。
当院でも同様に3種類の抗C G R P製剤が使用可能です。

頭痛ガイドラインより抜粋
それぞれの製剤を使用する上での大きな違いはほとんど有りません。 これらの注射製剤は、片頭痛の発生メカニズムを遮断することにより、実質的に片頭痛を発生させないようにします。発生しないため、頭痛が起きないと理解すると分かりやすいです。 これは片頭痛のメカニズムが解明されつつあるからであり、現在は「三叉神経-血管説」が有力です(図1)

図1

三叉神経という脳を覆う硬膜に張りめぐらされている知覚神経であり、その神経終末から分泌されるカルシトニン遺伝子関連タンパク質(CGRP)と言われる痛みタンパク質が血管にある受容体へと結合。その時に血管が急激に拡張し痛みを生じると言われ、それに伴って生じる頭の痛みを片頭痛と呼びます。片頭痛発作時にはこのカルシトニン遺伝子関連タンパク質(CGRP)の濃度が異常に上昇することが分かっています(図2)。

図2

「エムガルティ®︎」「アジョビ®︎」「アイモビーク®︎」の使い分けには特別なルールは有りませんが、それぞれの注射製剤ごとに特有の使用法があります。
特徴1:接種間隔
初回2本を打たなければならないのが「エムガルティ®︎」です。一気に血中濃度を上げてより即効性と持続性を有します。注射の間隔は1ヶ月毎です。また、慣れてくれば自宅にてご自身で接種する在宅注射も可能です。そのため注射は毎月ですが、外来の受診は3ヶ月毎にし、2回は自宅で自己注射することが可能です。1ヶ月に1本、初回は2本であるため1年間で13本となります。

エムガルティ®︎
一方で「アジョビ®︎」は初回が1本接種となります。4週間毎の接種となるため、5週ある月には同じ月に2回受診が必要となります。そのような月が1年間に数回あるため1年間の本数としては13本となります。また、注射製剤3本を1回で一気に接種することも可能です。その場合は次回の外来は12週後になります。このようにライフスタイルに合わせて接種の回数を選択できる特徴があります。

アジョビ®︎
「アイモビーク®︎」は4週間毎の接種という方法しか現在は有りません。「アイモビーク®︎」には他項に説明するような他の2剤と異なる特徴を持っています。

アイモビーク®︎
特徴2:作用機序
片頭痛の発生は「三叉神経-血管説」が言われており、三叉神経終末から出る痛みタンパク質であるカルシトニン遺伝子関連タンパク質(CGRP)が原因となっております。
このタンパク質が血管のレセプターに結合することで、血管の拡張が起こり痛みを発生させます(図3) 「エムガルティ®︎」「アジョビ®︎」「アイモビーク®︎」はまさにこの領域をブロック(制御)することにより、片頭痛の発生を抑えます。

図3

このうち「エムガルティ®︎」「アジョビ®︎」は直接痛みタンパク質(CGRP)に作用して、タンパク質を中和し死活化させます。 一方で「アイモビーク®︎」はCGRP受容体へ作用し、レセプターに蓋をしてタンパク質がレセプターに結合できない様にしてしまいます。
つまり、片頭痛の発生は鍵と鍵穴のイメージです。鍵が鍵穴に刺さると片頭痛のドアが開きます。これらの注射製剤は鍵あるいは鍵穴を壊してドアが開かない様にするイメージです。

特徴3:成分
「エムガルティ®︎」「アジョビ®︎」はヒト化抗体と言って、一部にマウス由来の成分が含まれております。一方で「アイモビーク®︎」はヒト由来成分のみで作成された完全ヒト抗体製剤です。ヒト化抗体は遺伝子工学的手法でマウス抗体の部分は最小限度にして残りを全てヒトの抗体置き換えた抗体です。一方で完全ヒト抗体は100%ヒトの細胞から作られた抗体であり接種後に異物と認識されてアレルギー反応を起こすことが少ないと言われます。

当院における実績
当院では2021年5月より「エムガルティ®︎」、2021年9月より「アジョビ®︎」を導入。その後、2022年2月よりアイモビーク®︎」を導入しました。ほとんどが内服予防では効果が不十分であった患者さんたちです。抗CGRP製剤を使用する主たる目的は頭痛の頻度を下げ、頭痛の強さを弱め、結果的に生活支障度を低下させることにあります。しかし、長期的な最終ゴールは薬物乱用性頭痛を改善させ、また、頭の中にイメージ定着された頭痛が来てしまう(天気が悪いと頭痛が来ちゃう、など)という脳内プリンティングを抗CGRP製剤を用いることで頭痛が来ない日常に慣れてしまい無頭痛の脳へと塗り替えてしまう事にあります。
当院での実績も併せて掲載いたします。

中野区医師会勉強会資料より:当院での抗CGRP製剤使用実績